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銀様生活 9

ID:bjaPfkJC 氏(初出ID)
GW中の一コマ

「うわー。これはまた凄いな…」
遅めの朝。
早めの帰宅ラッシュによる車の長蛇の列がテレビに映っている。
「車って便利でしょうけど、皆が皆乗るから混雑するのよ」
「それもあるだろうけど、高速代がすっごく安くなってたからね。しょうがないよ」
各地の渋滞情報を読み上げるレポーターを見ながら、
「これはしかし、遠出しなくて正解だったなぁ」
と、ソファに深々と沈み込み、欠伸まじりに呟く。
「たっぷり寝った挙句、未だにパジャマ姿の貴方がそんなこと言っても、元より出かける気なんて更々無かったんじゃないの?」
ソファ上部に腰を下ろし、ちょっと意地悪そうに口角を上げて覗き込む銀様の顔が視界に入る。
俺の顔の横でご機嫌そうに足をゆらゆらさせて俺の返答を待っているようだ。

---

「あー…、銀様と一緒に居たいから出かけなかったんだよ。うん」
「私をそのテキトーな口実に使うあたり、さすが立派な家来ねぇ」
銀様は苦笑しながら手を伸ばし、少し乱暴に俺の頭を撫でる。
「ぎゃー!銀様、ちょ、ちょいと止め……」
「なぁに、止めて欲しいの?」
「その、撫でるならもっと優しく撫でて欲しかったり…」
「あらあら、そういう事」
短い返事の後、くしゃくしゃになった俺の頭を、指先で撫でてくれた。

しばらくして、
「髪、意外とサラサラしてるのね……だから男らしくないのかしら」
などと銀様の勝手な考察が進む中、胸の奥がなんだか懐かしいようなくすぐったいような、不思議な気持ちでいっぱいになってきた。
目を閉じて銀様の指先に集中していると、「どうしたのよ。さっきからずっと無言よぉ」なんて言われてしまった。
「ごめんごめん。気持ち良くてついつい……こんな風に撫でられたのは何年ぶりかな、って考えちゃって」
勝手に何年ぶりなのか遡り始める思考を止めて、
「そいえば銀様は、頭とか撫でてもらったりしたことはあるの?」と尋ねた。

---

銀様の手が止まり、
「…あるわよそれくらい」
短く一言。俺の目をじっと見てから、
「まぁでも、当の本人は忘れちゃってるみたいだけど」
と、少々呆れ気味な声で銀様は言う。
「えっ、前?前にしたっけ…?」
「で、その忘れてしまったお馬鹿さんは、もうしてくれないのかしら?」
銀様はわざとらしくそっぽを向いて呟いた。

---

あっちを見たままの銀様にの頭におそるおそる手をのせる。ひんやりとした感触が心地よい。
銀様の髪の流れに沿そって撫でる。
2,3度と撫でてみたけれど、銀様は眉をひそめてなんだか不満そうな表情。
突然、ひょいと飛び降りて俺の膝の上に乗っかってきた。
「ぎ、銀様っ!?」
「いいから早くなさい」
横向きに膝の上にちょこんと座った銀様はこちらに体を傾けて、丁度俺の胸の辺りに銀様の耳が当たる感じ。
爆音に近いであろう心音を聴かれていると思うと、余計に恥ずかしくなってきた。
それを意識しないように努めつつ、かなりぎこちない手つきで銀様の頭をそっと撫でてやる。
「何故だか、貴方を急に困らせたくなったの。ねぇどうしてかしら?」
胸元から銀様の声が浮上する。
「そ、そんなこと訊かれても分かんないよ。とにかくそろそろ満足した?」
「まだまだよ。…そうねぇ、バカみたいにうるさいこの音が落ち着くまでは続けて貰うわぁ」
そんな無茶を言う銀様に、自然と俺の口から諦め成分半分くらいの溜息がこぼれた。

---

「ホント、最近いきなり蒸し暑くなるし…気分からカビちゃいそうよぉ」
銀様はストローでアイスコーヒーを飲みながら、器用にも愚痴をこぼす。
「これ以上暑くなるなんて想像もしたくないわ」
言いながら、今度は長柄のスプーンでアイスコーヒーに浮かぶバニラアイスを削って、口に運ぶ。
もっと暑くなることを想像したのか、苦い表情の銀様だが、アイスの甘さと冷たさにその口元が綻んでいた。
「そうは言うけど、冬になれば寒いのは嫌。って言ってゴロゴロするんだよね」
「し…失礼ね。貴方は馬鹿だから忘れてるでしょうけど、レディーなのよ私。そ、そんな事はしないわぁ」
「はいはい、判ってますよ。それでいてローゼンの中で最も淑女なのも分かってます」
冷たいものを摂って、だんだん元気になってきたようだ。
口をとがらせて何か言いたげな銀様を見て安堵する。

---

いつもの調子で言った軽口だけど、淑女な銀様がイメージできない。
少なくとも俺の隣に今居る銀様は、忙しくアイスをパクパク食べながら、コーヒーを飲んでいて、
淑女というよりはむしろ、子供といったほうが正しい感じがする。
自然と、顔が緩んでいって、小さく笑ってしまう。
「ちょっとぉ…人の顔みて笑うなんて失礼よ」
「ごめんごめん」
「全然謝ってるようにみえないわぁ」
「バレた?」
銀様の右手の平が膝に飛んでくる。
ストローを咥えたままで片手で叩く様子が可愛くて、再び笑ってしまう。

---

「また笑ったわね。このっ!」
「ちょ、銀様、やめ、やめっ…」
何度も打ってくるその手を防ぎながら、
「銀様、鼻にアイス付いてるよ」
あからさまな嘘を口にしてみる。
「嘘ねっ!」
完全に見切って、得意気に言い切った銀様だが、俺の真摯な視線に動揺。
少しして銀様は鼻に手を伸ばして――
「って、ひっかかる間抜けな銀様かわいいよ銀様!」

---

俺は笑いながらソファから飛びのくが、冷静な銀様の判断は早かった。
逃げ遅れた左足を銀様が蹴って、重心を抜かれて膝をついてしまう。
すかさず背後から銀様が飛び掛ってきて、首に両手を回して後ろからぎゅうっと絞めるように抱きついてくる。

初夏を感じさせるようなどこまでも深いブルースカイ一色の空に
俺の声にならない悲鳴が響き、
梅雨の湿気た風の前にかき消された。

---

素のままのシフォンケーキが珍しいのか、銀様は椅子の上に立ってケーキを指でつついたりしている。
紅茶の茶葉を混ぜて作った生地なので、紅茶のふんわりとした香りが銀様にはたまらないらしい。
俺が生クリームを泡立てているのをいいことに、銀様は隣でシフォンの端っこを千切っては口へと運ぶ。
「銀様、いつの間にか味見どころか、思いっきり食べてない?」
「え、大丈夫よ、ちょっと、ほんのちょっとだけよぉ」
それにしてもなかなか上手にできてるじゃない。と銀様はまたもぐもぐしながら呟く。
一部、無残な形を露見し始めたシフォンケーキをみて、俺はやれやれ。と、ため息を吐いた。

---

それにしても暑い。
そろそろ蝉が鳴き始めそうな休日の午後。
とりあえず生クリームがそこそこ泡立ってきたので、ボウルと泡立て器を置いた。
「クリームはできたの?なら、私の出番ね」
「ああ、最後は任せるよ」
頬に流れてきた汗を拭って、出涸らしで薄く色付けしたアイスティーを飲んで一息つく。
暑すぎてボーっとしてきた。
一応置いてある扇風機はほんの気休め程度だ。
エアコンをつけるには少し躊躇してしまう時期。まだこの扇風機でなんとか乗り切りたい。
けれど、部屋の温度自体高いので送られてくる風はどうも生ぬかったりする。
さらに、この扇風機、根元の線の接触がおかしいのか電源を切ってもたまに断続的に動いてしまう問題児だ。
なので電源のオンオフは、コンセントの抜き差しによって行う。
うーん…今度電気屋のセールに行ってみるか。
暑いとどうも集中力が保てない。
冷たい紅茶で喉を冷やして一瞬の清涼感でこの暑さを紛らわせた。

---

「できたわぁ!完成よ」
元気な銀様の声。
随分早い完成に驚きつつ、ケーキを見てみると、クリームでコーティングというより、ぶっかけたという表現のほうが正しい。
キャンバスにペンキを一缶丸々豪快にかけたような状態で、見る人から見れば、まるで前衛芸術のように――みれるか。
呆気にとられてる俺をよそに、さっさと銀様は自分の分を切り分けて皿に載せて、そのままキッチンで食べ始めた。
「さすが私。なかなか上手にできてるわぁ」
最後のぶっかけ作業以外はつまみ食い担当の銀様が、満足気な表情で言う。
「ちゃんと冷やさないと美味しくないと思うけど…」
「そう?十分美味しいわよ?」
食べてみなさい。と、一片をフォークに刺して突き出した。
こんな何気ない行動に、ほんの少し戸惑いながらも、ありがたく一口いただいた。
シフォンがまだ温いおかげで紅茶の風味が意外と出ていて、案外美味しいものだった。
「ちょっと生地がおちついてないけど…美味しいかも」
「そうでしょう。なかなか気に入ったわぁ」

---

「またケーキ、作るんだったら…手伝ってあげてもいいわよ」
チラチラと俺を見上げて銀様が少し照れたように言った。
そんな銀様に、俺はケーキを一目見、優しく微笑んで、
「お断りします」
丁重にお断りしました。

---

日中はぎらぎらと肌を焦がすような日光。
夜は昼間の熱が、地面から上がって空気を蒸すように。
まだまだ夏の盛りだったころ。
今夜もなかなか寝付けない。
暑いのも確かに眠れない要因ではあるが、
「アツいぃー…暑いぃ…」
銀様のゾンビのような声が、背後から聞こえるのもその一因だ。
更には、さっきからゴロゴロと左右に転がりはじめたせいで、時折背中に銀様が当たって眠れない。
文句の一つや二つ言ってやろうか。なんて思ってたら、銀様が立ち上がる気配。
ベッドのスプリングを利用して俺を飛び越えて、
「起きてるでしょ?ちょっと私に付き合いなさい」
銀様はそれだけ言い残してさっさと歩いて行ってしまう。
嫌だ。と言ってやりたかったが、きっと行かなければ叩き起こされるに違いない。
あくびをしながらふらふらと銀様の後につく。

---

「で…銀様、何するの?」
「何って、見たら分かるでしょ。映画を観るのよ」
銀様は俺が借りてきたDVDの中から、適当に選んで取り出して言った。

暑い夏だし、こういうときにこそホラー映画。
先週、ネットでも怖いと評判の映画を借りてきたら、評判どおりの怖さで、
銀様は途中でどっか行ってしまうし、(銀様曰く、「さっき読んでた本の続きが気になっただけ」)
怖かったけれど最後まで頑張って観てみたら後味が悪さが半端じゃなかった。
なので、今回はもっとかるーく見れる映画、見てみたかった映画をレンタルしてみた。
どちらかというと、B級モンスターパニック、スラッシュホラー中心のチョイスだ。

---

銀様は、すっかり慣れた操作で『本編再生』を選択しながら、こっちに来なさいとソファを叩く。
「いやいや、それは分かって――」
「しっ!もう始まるわ」
画面には昔の映画独特の色でおどろおどろしい雰囲気が漂っていた。
拒否権はないらしい。
諦めて銀様の隣に座った。


かの有名なホラー映画で、人形が人を襲うっていう内容だった。
小さい頃にみて、ちょっとの間バービー人形すらも怖がってた覚えがある。
今観なおすと、全く怖くは無かったが、
「他人事とは思えない内容だわ…」
率直な感想が口から漏れる。
「ちょっとどういう意味よ」
不満気な声が俺の隣から上がる。
「動く人形ってのもそうだけど、凶暴なところとか、人に危害を加えるところとか似てる゛ッ!」
脇腹を拳で突かれた。
「そうねぇ、凶暴かもしれないわねぇ。貴方が今みたいに、失礼な事を言ったらね」
「ちょっ、銀さ、ま。今の、変に入った!はいって、ますって!」
先程の一撃で身を捩る俺に、
「そうね…その軽い性格を矯正してあげましょうか」
「ぎゃー!」

---

おまけ
「時々思うんだけど、貴方って、叩かれて喜んでなぁい?」
「えっ!そんなことはないよ。ただ銀様の怒った顔が可愛いからおちょくってるだけだよ」
「……これ以上この話題を聞くのは止めるわ。次観ましょう」
「えっ、次?ね、寝ないの。元気だね銀様。じゃあ、先眠るよ。体中痛いし…」
「何言ってるの。もちろん貴方も一緒によ」
「……拒否権はないですよね。」
「当たり前よ。ところで、登場人物全員、爽快に死ぬ映画ってあるかしら」
「あー、確かピタゴラスイッチ的に愉快に死ぬやつならあるよ」
「じゃあそれをお願いするわぁ。それ終わったら次は―――」
すっかり朝になるまで銀様とホラー映画を見た一晩の話。

---

今日は銀様がやけに起きてくるのが遅い。
昼を過ぎたというのに鞄をちょっとの間眺めていても、動き出す気配がない。
自称乙女の銀様の鞄を勝手に開けた日には、まずはじめに銀様の指が両目に刺さったことを思い出して、未だに乗り気ではない。
けれど、起こさなくて後で怒られるのもそれはそれで嫌なものである。
これまで銀様をおちょくったり、少しでも気にくわないことをするとすぐに蹴りが飛んできた。
だんだんそんなことにも慣れてきて、銀様の蹴りを自然と回避できるようになってきた。
初めて蹴りを躱されたときの銀様の顔ったら、唇を噛みしめてすごく悔しそうだった事を思い出す。
まぁ、その後すぐに銀様の右手でポカっと叩かれたんだけどね。
最近は銀様も起動変化する蹴りを織りまぜてくるので避けるのが難しい。
というか、そんな高度な格闘技術を普段から仕様する乙女はなんか嫌だなと思ってるけれど、もちろん口にはださない。

---

そんなこんなを勝手に頭の中で繰り広げながらも、
「……おはようございます」
寝起きドッキリのスタッフみたいに小声で銀様の鞄をゆっくりとあけた。
不意の目潰しに対応すべく、引け腰で、傍からみるとかなりマヌケな姿勢で恐る恐る。といった感じである。
鞄を開けきっても、中の銀様は一ミリも動かず、ただただ静かな寝顔を見せる。

ほっと一息ついて、そのまま銀様の寝顔を観察する。
いつもは無茶な事を要求してきたり、俺にからかわれて怒った顔も、ちょっと控えめに笑う銀様の顔も、それはそれは何度も見てきたけれど、
眠ったままの銀様のこの表情だけは今まで見たことがないものだった。
もっと見ていたい。そんな気持ちが僅かながら湧いて出てきた。
しかし、これはあまりに無防備な顔だ。こうやってみると銀様って黙ってれば相当可愛いんじゃあないか。
何故か急に胸の鼓動が高鳴ってきた。
何も悪いことはしていない。ただ見てるだけだ。
それが、なんだかとてもイケナイコトのように思えたのだ。
すぐさま銀様の頬をつついてやる。
銀様は動じない。
もう一度つついてみても同じ。

---

今度は頬に軽く触れてみた。
滑らかな肌。冷たい感触だった。
生きている人形。ローゼンメイデン。
ただ動くだけではない。
ちゃんと暖かいし、感情もある。
そう、暖かいはずなのだが…。
これじゃあまるで普通の人形だ。
「ぎん…さま?」
抱き上げると、無機質なモノとしての重たさを両腕に感じる。
もう動かないのだろうか…?
厭な妄想が一人でに頭の中で爆発的に広がってゆく。
力なく銀様の頭がカクンと横に垂れる。
ん―――――?

銀様の反対の頬に何かの跡。
なんの跡だろう。
それも漫画とかにでてくるようなわかりやすいねじ巻きみたいな…。

---

銀様が下敷きにして眠ってたからわからなかった。
鞄の中にそれはあった。
気持ちが負の方向に走ってしまったせいで、冷静になったらすぐに分かることも予想できなかった自分が恥ずかしい。
むしろほんの1分でも心配したことに笑ってしまう。

たしか穴は背中のほうだったっけ…。
初めて巻いた時を思い出す。もうそれはかなり前のこと。
膝に銀様を座らせる。
グラグラ揺れて向こうに頭から倒れてしまわないように、銀様の頭を胸に抱き寄せて姿勢を安定させる。
「少し、失礼します」眠ったままの銀様に謝って、腰に手をまわす。
すぐにその小さな穴は見つかった。
銀様の頭を片手で寄せながら、もう片手でキリキリと巻いてゆく。

---

初めて銀様のを巻いた時を思い出した。
あの時はたしか銀様がまさか動くものだとは思っていなかった。
うつ伏せに寝かせて巻いたっけ…。
それで、倒れた状態から起き上がって俺を見て、いや睨んで、のほうが正しいかもしれない。
とりあえず俺は腰を抜かしてその場でへたったっけ。
人形が話しかけてきたときには、そろそろ自分ももう終わりだな。なんて事を思ったこともよみがえってくる。

めいっぱい巻いて、ねじ巻きを銀様から抜く。
これでいい筈だ。


まだ起きない。
未だ腕の中で静かなままの銀様を見て、背筋に氷が滑るような感覚が走る。

---

厭な予感が何度も何度も頭の中を行き交って余計混乱させる。
銀様。起きてよ、起きてください。
焦燥感が募り、声に出すのを忘れてしまう。
視線が定まらず、銀様の顔もぼやけてきた。頭がクラクラする。

倒れそうな俺の耳に聞こえたのはプフフッ。という小さな笑い声。
呆気に取られた俺の膝の上で、銀様はもう耐えられないとばかりに吹き出した。
「ぎん、さま…?いつから起きて」
もしかして最初から起きていたのか。
「さっき起きたところよぉ。まぁ、ちょっとばかり寝たフリしてたけど…まさか、自分でネジ巻くの忘れるなんてうっかりだったわぁ」
銀様の瞳が、びっくりした?とイタズラっ子みたいに俺を見上げる。
「貴方に巻いてもらったのは不本意だけど、その必死なお顔が見れたから良かったわぁ。それにしても焦りすぎよぉ。本当にヒドイ表情だったわよ?」
とかそんな他人事のように、いや他人事なのだろうが俺を銀様は笑う。

---

「よか……ったぁ」
力が抜けてそのままソファに崩れる俺を見て、銀様は本当に楽しそうだ。
かなり長い間生きてるんだろうからもうちょっと性格も落ち着けばいいのに。
頭の中で愚痴って、時計をみる。
「どうでもいいけど、くんくん探偵、終わってるよ」
突如表情が銀様の表情が凍りついた。
サッと電光石火のように銀様の視線が時計を追う。
「こ、この時計がくるってるのよ」
と、銀様は自らの感覚で、時刻を演算。
何度も何度もやり直したらしく、たっぷり15秒ほど、「時計の方がおかしい」と言い放った格好のまま停止、
動いたと思ったらそれはそれはものすごくがっかりした様子で、
「そんなにあの犬の番組、好きじゃないの」
そう語る銀様の瞳は、憂いを帯びていた。

「もっと早く起こしなさいよぉ!」
不意を狙った銀様の八つ当たりの蹴りが俺の左脛を狙う。
すかさず足を上げて避ける。

---

くんくんを見れなかった悔しさに、さらに蹴りが当たらなかった悔しさが追加され、ますます不機嫌な銀様の横顔がそこにあった。
すかさず首を狙うと見せかけてボディをエグリにくる銀様流の回し蹴りが繰り出されるが、それをなんとか両手で受け止めた。
「フッフッフ!銀様、俺は流石に何度も同じ技にかかるほどのバカではな―ぢっ!」
パァン!銀様の手のひらが勝ち誇った俺のほっぺたにクリーンヒット。
結構すごい音がなったが痛くない。けど、悔しいっ!
「はぁー、スッキリしたわぁ。」
銀様は背伸びして、俺に背を向けた。
その一瞬を逃さない。
背後から銀様の足を膝から両手ですくい上げ、膝を折った状態で抱き上げられた銀様は逃れようと手を振り回すが、
左腕、右腕と順に挟むように銀様の両腕をホールド。
いわゆる幼児におしっこさせるときにするような格好で銀様を捕える。
正面からみると、ものすごくあられもない銀様がご覧いただけるとおもうが、
この部屋に鏡がないのは良かったのだと思う。

---

銀様のそんな格好を見ると、もれなく銀様法により死刑確定だ。
「フゥッハッハー!油断したな!降ろして欲しかったらゴメンナサイをしましょうね」
調子にのるにのりまくる俺に銀様は大変おかんむり。
ここから確認できる限り、耳を真っ赤っかにして声にならない声で怒りを顕にしている。
そろそろ翼全開で俺を殺しにかかってきそうなので降ろそうとおもった矢先。

「失礼するわ」
銀様のではない、別の声とともに一瞬で場が凍りついた。
無酸素状態になったのかもしれない。
部屋の気温が宇宙の温度と等しくなったのかもしれない。
ちょうど正面のテレビの画面から出てきた真紅さんが、ステッキを落とす音が聞こえた。
カランカランと軽い音が部屋に響きわたって、再び沈黙が訪れる。
その間、銀様の怒りによる震えなんて消えて無くなっていたし、俺は真紅さんの凍ったあの瞳が忘れられない。
落としたステッキを真紅さんは拾い上げようとするが動揺して手が震えていて、なかなかうまく掴めない。

---

何度か試して、ようやくステッキを拾って、「くんくんが」「終わったから」「久しぶりに……」
途切れ途切れの三言を呟いて、画面の中へと戻ってゆく。
真紅さんはさってゆく際に、どこか遠い目で俺たちを見ないように見つめながら、
「水銀燈…の、赤ちゃん…プ」とかなんとか放心したまま呟いて戻っていった。

「銀様……」
ものすごく喉につかえながら俺はそれだけしか言えなかった。

「降ろして」
銀様はとても静かに言いました。

「わかり…ました…」
今日はとてもつかれました。

---

銀様についたエイプリルフールのウソで大げんかしたい

「そんな安っぽい謝罪で私が許すと思う?」
「だから本当にごめんって言ってるじゃないか…」
「だからって何よ。そういう風に言ってる時点で謝る気ないじゃない。そもそも、主人である私を許しもなく騙そうって時点でタチ悪いわぁ!」
「軽い冗談じゃないか。どうしてそんなにカリカリしてるんだい。ちょっとは寛容に受けるなり流すなりしてほしかったよ」
「いいこと?笑える冗談と笑えない冗談の二種類あるの。貴方にとっては笑えたかもしれないけど、私にとっては笑えないの。わかるおばかさん」
「だから、本当にご――」
「ほうらまた言った!ロクに謝ることもできないのに私に許して欲しいのね。傲慢にも程があるわ」
「ご、傲慢って、まさに銀様にだけはいわれたくないね!」
「…っ。貴方みたいなバカ相手にするのがバカみたい。もういいわ何も言わなくても」

---

「ほら、そこが傲慢じゃないか!何も言い返せなくなったらすぐにバカバカいいやがって!銀様はアレか、子供だからそこんとこ俺がいちいち大人の対応してやらないといけないのか?」
「随分と上から目線でものを言うのね。話にならない。あなたが黙らないなら私が消えるわ。もう会うこともないでしょうね」
「ちょっ…!銀様、待ってよ!」
「まだこんな時でも『銀様』って呼ぶのね。それって敬称でしょ?貴方は私のものって事を貴方自身で認めてるってことよ。主人の決定には逆らわないっていう決まりだったわよね」
「……」
「今更黙ったって遅いわぁ。出ていくのは私が決めたこと。貴方は黙って私を送ればいいの」
メイメイを呼び出して、nのフィールドへの扉を開く銀様。
もう次の瞬間にはもう居なくなってしまいかねない状況。
そんな時に言いつけを破って、銀様に後ろから抱きつきたい。
「放して。放しなさい!」
そう言って、俺の頭に後頭部をぶつけてきたり、脇腹を肘でついてきてジタバタする銀様。
本気を出せば一瞬で俺の両腕からも逃れられる筈なのにそれをしない。

---

何度も何度も、暴れる銀様に叩かれたり突かれた場所が痛む。
それよりも、きっと銀様が居なくなった時の方がもっと痛い。
だから、俺は必死で銀様を掴んで放したくなかった。
「ぎんさま…」
顔を下に向けたまま、俺の呼び掛けには答えない。
ふー、ふー。と、肩で息をしている。
「ぎん――。…すいぎんとう。ごめんなさい!」
俺の腕にかかった水銀燈の小さな手がピクリと反応する。
「最初に銀様に言われてた事忘れてた。けど今思い出した」
それを守ることはとても簡単で、当たり前のようなこと。
銀様の言う事はきく。嫌なことはしない。それだけ。
とっても簡単。
けれど長く水銀燈と過ごしていて、浮かれてそんな事も守れなくなっていた。

---

しかし、今も『放して』と言った水銀燈に逆らって強く抱いたままだ。
「だから銀様とは呼ばない。水銀燈って呼ぶよ」
いうことはきかないけど、極力きいてあげて喜んでもらいたい。
嫌なこともするかもしれないけど、素直に謝りたい。
言いつけなんてなくったって、僕として水銀燈に尽くしたい。
それだけなのだ。
それが僕が思うすべて。
そんなふうな事を。他人が聞いたら笑ってしまいそうな恥ずかしいことを勝手に言っていた。
これ以上なにもいえなくて、言葉に詰まってしまって、無言の中どうしようか考えていると
「放して」
と水銀燈が呟いた。
今度は前よりも穏やかな口調だった。
絶対に放したくないと思っているのに、両手はすんなりと放した。


---

銀様の背中が大きくため息を吐く。
こんな状況なのに見惚れる程に綺麗な髪の毛が、これまた綺麗な曲線を描いて振り返る。
パァン!と大きな音がなって、ちょっとしてから頬を叩かれたと言う事に気がついた。
「生意気」
水銀燈はそれだけ言ってソファに座る。
たぶん、この時の俺は頬に小さなモミジを紅葉させ、呆けた表情をしていただろう。
いつの間にかメイメイを呼び戻していて、銀様が立てた人差し指の周りをを二度三度旋回して、
ロウソクの火が消えるようにふとどこかへ行ってしまう。
「…いて、くれるの?」
生唾がヤケに喉に引っかかる。なんとか絞るように言葉を出した。
「有言実行って知ってる?」
水銀燈はちょっと意地悪そうに笑って僕を見た。
赤く光るその目は。
昔、僕が初めて水銀燈と会ったときに見た、その目の色と同じだった。

---

おまけ

胸をなで下ろす俺を見て、水銀燈はやけにニヤニヤしている。
何故なのか。
モミジが出来た俺の顔がおかしいのか。なんなのか。
もしかしたら泣きそうな顔になっていて、それがよっぽど変な顔なのか。今目が少し潤んでるからありえる。
「なにさ…」
叩かれた左頬を手で覆って、ネコ科の笑みを浮かべる水銀燈に問う。
「なんにもないわ。ただ…」
「ただ?」
「貴方、ずっとこれまで『俺、俺』って言ってたのに、『僕』だなんて…その必死さと青さが微笑ましかっただけよ」
「ちょっ…!か、からかわないでもらえるかなっ!?」
「でも、好きよ」真剣な顔で水銀燈が急に言ったものだから心臓がドキンと強く高鳴る。
「えっ?」
「貴方をからかうことが、ね」
あるいは、穏やかなエイプリルフール

---
銀様についたエイプリルフールのウソで大げんかしたい

「そんな安っぽい謝罪で私が許すと思う?」
「だから本当にごめんって言ってるじゃないか…」
「だからって何よ。そういう風に言ってる時点で謝る気ないじゃない。そもそも、主人である私を許しもなく騙そうって時点でタチ悪いわぁ!」
「軽い冗談じゃないか。どうしてそんなにカリカリしてるんだい。ちょっとは寛容に受けるなり流すなりしてほしかったよ」
「いいこと?笑える冗談と笑えない冗談の二種類あるの。貴方にとっては笑えたかもしれないけど、私にとっては笑えないの。わかるおばかさん」
「だから、本当にご――」
「ほうらまた言った!ロクに謝ることもできないのに私に許して欲しいのね。傲慢にも程があるわ」
「ご、傲慢って、まさに銀様にだけはいわれたくないね!」
「…っ。貴方みたいなバカ相手にするのがバカみたい。もういいわ何も言わなくても」

---

「ほら、そこが傲慢じゃないか!何も言い返せなくなったらすぐにバカバカいいやがって!銀様はアレか、子供だからそこんとこ俺がいちいち大人の対応してやらないといけないのか?」
「随分と上から目線でものを言うのね。話にならない。あなたが黙らないなら私が消えるわ。もう会うこともないでしょうね」
「ちょっ…!銀様、待ってよ!」
「まだこんな時でも『銀様』って呼ぶのね。それって敬称でしょ?貴方は私のものって事を貴方自身で認めてるってことよ。主人の決定には逆らわないっていう決まりだったわよね」
「……」
「今更黙ったって遅いわぁ。出ていくのは私が決めたこと。貴方は黙って私を送ればいいの」
メイメイを呼び出して、nのフィールドへの扉を開く銀様。
もう次の瞬間にはもう居なくなってしまいかねない状況。
そんな時に言いつけを破って、銀様に後ろから抱きつきたい。
「放して。放しなさい!」
そう言って、俺の頭に後頭部をぶつけてきたり、脇腹を肘でついてきてジタバタする銀様。
本気を出せば一瞬で俺の両腕からも逃れられる筈なのにそれをしない。

---

何度も何度も、暴れる銀様に叩かれたり突かれた場所が痛む。
それよりも、きっと銀様が居なくなった時の方がもっと痛い。
だから、俺は必死で銀様を掴んで放したくなかった。
「ぎんさま…」
顔を下に向けたまま、俺の呼び掛けには答えない。
ふー、ふー。と、肩で息をしている。
「ぎん――。…すいぎんとう。ごめんなさい!」
俺の腕にかかった水銀燈の小さな手がピクリと反応する。
「最初に銀様に言われてた事忘れてた。けど今思い出した」
それを守ることはとても簡単で、当たり前のようなこと。
銀様の言う事はきく。嫌なことはしない。それだけ。
とっても簡単。
けれど長く水銀燈と過ごしていて、浮かれてそんな事も守れなくなっていた。

---

しかし、今も『放して』と言った水銀燈に逆らって強く抱いたままだ。
「だから銀様とは呼ばない。水銀燈って呼ぶよ」
いうことはきかないけど、極力きいてあげて喜んでもらいたい。
嫌なこともするかもしれないけど、素直に謝りたい。
言いつけなんてなくったって、僕として水銀燈に尽くしたい。
それだけなのだ。
それが僕が思うすべて。
そんなふうな事を。他人が聞いたら笑ってしまいそうな恥ずかしいことを勝手に言っていた。
これ以上なにもいえなくて、言葉に詰まってしまって、無言の中どうしようか考えていると
「放して」
と水銀燈が呟いた。
今度は前よりも穏やかな口調だった。
絶対に放したくないと思っているのに、両手はすんなりと放した。


---

銀様の背中が大きくため息を吐く。
こんな状況なのに見惚れる程に綺麗な髪の毛が、これまた綺麗な曲線を描いて振り返る。
パァン!と大きな音がなって、ちょっとしてから頬を叩かれたと言う事に気がついた。
「生意気」
水銀燈はそれだけ言ってソファに座る。
たぶん、この時の俺は頬に小さなモミジを紅葉させ、呆けた表情をしていただろう。
いつの間にかメイメイを呼び戻していて、銀様が立てた人差し指の周りをを二度三度旋回して、
ロウソクの火が消えるようにふとどこかへ行ってしまう。
「…いて、くれるの?」
生唾がヤケに喉に引っかかる。なんとか絞るように言葉を出した。
「有言実行って知ってる?」
水銀燈はちょっと意地悪そうに笑って僕を見た。
赤く光るその目は。
昔、僕が初めて水銀燈と会ったときに見た、その目の色と同じだった。

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おまけ

胸をなで下ろす俺を見て、水銀燈はやけにニヤニヤしている。
何故なのか。
モミジが出来た俺の顔がおかしいのか。なんなのか。
もしかしたら泣きそうな顔になっていて、それがよっぽど変な顔なのか。今目が少し潤んでるからありえる。
「なにさ…」
叩かれた左頬を手で覆って、ネコ科の笑みを浮かべる水銀燈に問う。
「なんにもないわ。ただ…」
「ただ?」
「貴方、ずっとこれまで『俺、俺』って言ってたのに、『僕』だなんて…その必死さと青さが微笑ましかっただけよ」
「ちょっ…!か、からかわないでもらえるかなっ!?」
「でも、好きよ」真剣な顔で水銀燈が急に言ったものだから心臓がドキンと強く高鳴る。
「えっ?」
「貴方をからかうことが、ね」
あるいは、穏やかなエイプリルフール

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205 名前:銀様生活[sage] 投稿日:2010/05/17(月) 02:58:52 0
「最近そこ好きだね」
「ここ?そうねぇ、単純に座りやすいし、上だから優位に立っているみたいだからかしら?」
俺のすぐ横では銀様のブーツがユラユラ揺れる。
ソファの背もたれに座って、足をぶらぶら。
そのまま俺と一緒にテレビをみたりゲームしたり、はたまた本を熟読したり。
いつの間にか銀様の定位置へとなりつつあった。
「『優位に立ってるみたい』?とすると…つまりいつもは立場的に俺よりしたべ!」
語尾がどこかの田舎風味になったのは、銀様に蹴られたからだ。しかも頬を。
「ああ、そうそう、どこかのおバカさんに優しく教えてあげる事ができるからよぉ」
いくら手加減して蹴っているとはいえ、銀様は自分のブーツの底や踵の硬さを知らないのだと思う。
変な事を言うものなら踵落としが鼻っ柱をブチ折ることも有り得る。
俺はそれっきり無言で銀様に、分かった。と、頷いた。
「それで…今日はどうするのよ?」
「どうするたって、これから掃除してだな…」
「お掃除の後は?」
「その後は…、とにかく掃除してからだよ」

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そういったのが数時間前。
最近一気に暑くなったり寒くなったり、今日は丁度心地いい温かさ。
最近疲れていた事もあって、テレビも点けっ放しで熟睡してしまった。
座ったまま寝たため、銀様に起こされたあとは首の痛みと格闘しながら昼食を作る。
食べ終わったら掃除をしよう。
洗い物も済んだし、銀様とトランプで勝負してから掃除しよう。
洗濯入れてから掃除をし…もう夕方。
夕飯を作って、食べて洗って銀様と話していたらいつの間にか夜で…。

なんだかんだで、洋画劇場を銀様と最後まで見てしまいたい。
「もう少しで月曜日よぉ。そろそろ寝ないとフラフラで泣き言言いながら出かける事になるんじゃないの」
ダラダラと後番組を見てたら、銀様が頭上から俺に話しかける。
さっきまで俺の隣で一緒に見ていて、CMになる度に横から腰や腹にパンチしてきて、
そんなちょっかいに対しクッションで防いでみたり、なかなか白熱する戦いをおくっていた。

207 名前:銀様生活[sage] 投稿日:2010/05/17(月) 03:01:03 0
俺がぼーっとしてる間に、ソファの背もたれに腰掛けて、上から俺の頭をグリグリいじる。
右へ左へ、円弧を書くように好き勝手に頭を動かす銀様には、今度同じようなことをしてやろうと思った。
するなら銀様が髪を整えた後、むしろそうじゃない方は滅多に見れないのだが…。
とにかくそんな時を狙って静電気でハネまくるまで止めてやらないことにしよう。
ちょっとした計画を、ぐらんぐらん頭を揺らされながら考えた。
「ちょっと、聞いてるの?もしかして脳みそが混ざって液体化しちゃって、耳から零れちゃったのかしら?」
こんな感じでさっきから好き勝手言う銀様を見上げて、
「もう月曜だよ…この休日は何もしてないよ…明日にしよう!とかって思ってたら、もう終わるじゃないか!」
部屋の掃除も最近は次へ次へと先送りの連続。
したいことが他にも一杯あるにも関わらず、いざその時になったらなかなかできないでいる。

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「ようやく反応したわ。バカになったかと心配し…いや、やっぱりおバカさんよねぇ」
ため息混じりに憂鬱な俺の気を知らないで、楽しそうに俺の頭をぽんぽん叩きはじめる銀様は、今度いっぺん泣かしてやりたい。
たとえ軽くとはいえ、その衝撃で俺の脳細胞がどれほど死滅しているのだろうか。
「まず朝起きて掃除して、それから久々に辺りを自転車で……」
と、ここまで言っていて気がついた。
「あ…そうだ、今日銀様と出掛け」
「ようやく気付いたわね。おバカさんから脱却してノロマさんに昇格よぉ」
先程からのちょっとトゲトゲしい銀様の発言はこれのせいか……。
「うぐ…すみません。銀様…本当に…」
「別に良いわよ。無理に言って連れてくのも悪いと思…」
さっきまで俺を叩いていた銀様の手がピタっと止まる。
「ん?銀様が遠慮なんて珍しいね」
「違うわよ!悪いってのは私の気分で、…つまり行きたくなかったのよぉ」
「そう…か」

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照れ隠しに再び俺を叩きはじめた銀様だが、
「そうよ。でも、気付いただけ偉いわ」
と、少し乱暴に撫でる動作に変わっていた。
銀様にそう言われるとちょっぴりムズ痒い。
見上げると、銀様本人もそんな事を言ったのが自分で恥ずかしかったらしい。
慌てて付け足す。
「それに、退屈って訳じゃないわ。ずっと貴方をいじれるもの」
そう言って、銀様は俺の髪をくしゃくしゃにして意地悪く笑った。
でもその表情はちょっと困ったような顔で、銀様らしい笑みだった。