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喪男板水銀燈スレより 3

作者:74氏
喪「待ってくれ水銀橙…(いやだ…このまま終わるなんて…もう少しだけいてくれ…)」
水「なぁに……黙っていたんじゃなかったの……」
喪「そ、それはそうだけど……でも…もう少しだけ……いて…ください……」
水「嫌よ……言ったでしょ……ワタシはそれほどヒマじゃないって……」

―――『拒絶』そんな言葉が頭に強く浮かび上がる

喪「で、でも…あと…あと少しぐらいなら平気でしょ水銀橙!!」
水「……しつこいわよ……『糧』のくせに………私に命令なんてしないで……」

水銀橙の顔つきが険しくなる……
僕の目の前が真っ暗になる……
水銀橙との距離がどんどん離れていく……
もう二度と温かい気持ちの日々に戻れないそんな気がして………
僕は必死に水銀橙に食い下がった……

水「…いい加減にして……アナタ気持ち悪いわよ………」

水銀橙の顔がもう涙で見えなかった………
惨めだと思ったけれど、どうしても今は少しでもそばにいてほしかった……
視界が歪むなか必死ですがるように水銀橙の小さな腕に手を伸ばす……

『バチン!!』

小さな部屋に乾いた音が響き渡る……

水「……いい加減にして……それ以上何かしたら殺すわよ………」

頬を叩かれた僕は力なくその場にへたれこんだ……
水銀橙と目が合う……その目には僕が話し掛ける余地などないほどの眼だった…
何もかもが終わった気がした……もう何もかもがどうでもよくて…わからなかった……

水「……不快だわ……ここには…もう来る事もないわね………」

僕に背を向けて鏡に歩き出す水銀橙………
心のどこかで何かが崩れ落ちていく………

喪「……だったら……だったらもう契約なんて…契約なんて打ち切れよ!!」
水「………」
喪「どうせ…水銀橙は僕のことなんか足手まといだと思っているんだろ!?」
水「………」
喪「いいよ……どうせ僕はただのゴミクズなんだ!!」
水「……黙りなさい……契約を続けるかどうか決めるのは私………」
喪「うるさい!うるさい!うるさい!!……ならこの指輪をはずせば終わりだ!!」

力任せに指輪を外そうとする……
体の芯から激痛が走るがどうでもよかった……
指輪を無理矢理外せば死ぬこともわかっていたがそれでも僕にはどうでもよかった……

『バチン!!』

また乾いた音が部屋全体に響く……

水「……いったはずよ……契約を続けるも…終わらせるも私が決めると……」
喪「……う…ううぅ………」
水「…それに…無理に指輪をはずせばアナタは……死ぬのよ……」
喪「で、でも…僕は……僕は!水銀橙の…水銀橙の力になれなかった!!」
水「……だからなに……?」
喪「だからなにって…?僕じゃ水銀橙の力にはなれないっていってるんだ!!」
水「……フフッ………本当にお馬鹿な人間ねぇ……」
喪「な、なにがおかしいんだよ!?」
水「……馬鹿よアナタは……そんなこと最初からわかっているわ………」
喪「ど、どういうこと………」
水「戦いはアナタだけの力じゃないわ……私の力だってあるのよ………」

険しい眼つきをしていた水銀橙の眼がどこか遠くを見る目になっていた。

水「人とは愚かだけど……不思議な生き物よ……」
水「(この人間も間抜けだけれど…この部屋の人形やモノは皆彼を慕っている……)」
水「ほんの小さな力しかないくせに…時には大きな力を生む……」
水「アナタも……そうよ…ただ……自分を知らないだけよ………」
喪「水銀橙………」

水銀橙の目は僕をいつもの眼でしっかり捕らえていた。
心に漂っていた暗い気持ちがその眼を見るたびに薄らいでいく………

水「……何を言っているのかしらね……私らしくないわ………」

呆れた顔で水銀橙は机の上に腰掛けた。
その顔はどこか微笑んでいるようにも見えた……
……でも僕にはそれで充分だった。
水銀橙のそんな顔を見ていると溝のように感じていた関係もまた一つの『絆』のように
思えてきた……

―――そう、僕と水銀橙だけの特別な『絆』……

気がつくと僕は両手にティーカップをもって階段を上がっていた。
………久しぶりにいれた紅茶だから水銀橙はきっとマズイと言うに違いない。
上手くいれてもきっとマズイというだろうけど。


水「相変わらず……マズイわ………」
喪「ごめん…… !!……雪だ………雪だよ水銀橙!」
水「うるさいわねぇ……雪ぐらいでいちいち騒がないでくれる………」
喪「………ホワイトクリスマスだ………ふふ………」
水「なに……雪が降ったぐらいで……そんなによろこんで………」
喪「ふふ、なんでもないよ。これからもよろしく……水銀橙………」
水「……フゥ…泣いたり笑ったり……ホントお間抜けな人間ねぇ……」

僕と水銀橙はいつの間にかいつもの調子で一緒に粉雪が舞う空を見上げていた。
何の音もない部屋に雪の積もる小さな音だけが響く………

喪「ふぁ〜……よく降るなぁ………」
水「……そうね」
喪「水銀橙は雪が嫌い?」
水「……さぁ…どっちかしら………」

こんな会話がうれしかった。
一方的かもしれないけど、話し掛けるたびに呆れたような顔をする水銀橙の仕草が
たまらなく久しぶりで僕はさっきのことはどこへやらでいつの間にか笑っていた。

水「…………あまり今日みたいな日に馬鹿をするのは止めなさい……」
喪「へ?何?馬鹿なことって……?」
水「……仮にも…私のモノなんだから……人に笑われるのは……面白くないわ……」

そっと水銀橙はカップをソーサーに置くと、何となく水銀橙にしては珍しく居心地が
悪そうにボソボソとつぶやく。
僕はなんのことかわからず、顔に「?」マークを浮かべているだけだった。

喪「………?」
水「……今日は人間達には特別な日みたいねぇ……」
喪「…うん……今日はクリスマスだからね………」
水「そう……なの………」
喪「ねえ水銀橙……さっきの馬鹿みたいなことって……トレーニングのこと……?」
水「………」
喪「……ご、ごめん…でも……水銀橙の少しでも役に立ちたかったから………」
水「……わかってるなら…止めなさい……アナタは私のモノなんだから………」
喪「う……うん?(なにが言いたいのかな?水銀橙?)」

水銀橙はますます居心地が悪そうな顔をすると窓を開けて外に出て行こうとする。
部屋に冷気が一気に充満する。
僕は何となく首元が寒そうな水銀橙の首に自分の黒いマフラーをかけてみた………

水「……なにこれ……邪魔ねぇ………まぁ…いいわ………」
喪「ごめん…余計だったら外していいよ………」
水「……私にしてほしかったからこうしたのでしょ……ホント訳がわからない人間……」

水銀橙は不服とも照れ…それは勘違いかな?とも見える表情をすると窓辺から飛び立つ。
飛び立ったはずの水銀橙が急に後ろを向いた。

水「これ……やっぱり邪魔ねぇ……返すわ………」

そっと水銀橙が僕の首にマフラーを巻いてくれる…
巻き終わると顔に息がかかるほどの近くで妖しく微笑をすると飛び立っていった。
水銀橙がいなくなってからもしばらく一人優しく巻かれたマフラーの感触を感じていた。

喪「……メリークリスマス……水銀橙………」

――――水銀橙。


水銀橙が来てから僕は少なからず生きているという実感が感じられた。

――――でも……僕の生活はそれだけではない。
水銀橙と会えるのは夜のほんのひと時の時間だけ。
それも毎日とは限らない。
今日は水銀橙はいない。
水銀橙といる時間……それは充実した時ではあるけれど……
僕の一日という時間のなかではあまりにもはかなく、短すぎる小さな時間。
目の前で暇つぶしにやっているゲームのセーブデータにはトータルプレイ時間が
36時間と表示されている。
水銀橙と出会うほんの少し前に買ったゲームなのに遥かに水銀橙といる時間より長い。
そんなことを考えていると気分が落ち込んだ……

冬の夜空の下、僕は誰もいない公園でブランコに腰掛けていた。
何となく腕時計を見るとそろそろ水銀橙が部屋に来ていてもおかしくない時間を指していた…

……でも僕は…どうしても今日は部屋にすぐに帰ろうとは思えなかった。
……今日…会社で新年会があった。
……思い出すと慣れたはずの悔しさなのに目頭が熱くなる。

「お前さぁ?絶対彼女とかいないだろ? ………ああ…つーか童貞君かぁ!!」
「その歳で彼女いないってどういうことだよ?おかしくねぇ?」
「……ヒソヒソ…やっぱりアレなんだ…この歳までアレなんてよっぽどだよねぇ……ヒソヒソ…」
「おーい!誰かこいつの初物もらってやれよー!ビンテージものだぜ!?ビンテージ!」
「うわぁ……マジいらないし、勘弁だよね……ヤ、ヤバ!こっち見てる!」
「まぁ死にはしないから安心しろ!なっ!?ど・う・て・い・君!!」
「ギャハハッハ!!おいマジでビール吹くから辞めろっての!!」
「キモ過ぎ…ホント笑えないから勘弁して…クスクス………」

自分でも情けないと思えるほど引きつった笑顔でその場をごまかす……
嫌な時間だけど我慢するしかない……
それにこの時間が終われば……僕には………『水銀橙』がいる。

「あれ……お前……なんで左手の薬指なんかに指輪してんの……?しかも…女物か……これ?」
「よく見せろよ…なんだこれ……どこで拾ったんだぁ?」
「ホントだ……指輪してる……しかも女物……」

―――「デザインがダサい」「センスが悪い」「安っぽい」「小汚い」「ゴミ」………

……僕をけなすのに飽きた連中が今度は僕の大切な指輪に罵倒を浴びせてくる。
自分の服や髪型や体型などならば耐えられる。
でも…この指輪だけは馬鹿にされるのが許せなかった。
……それでも僕は卑屈な笑顔でその場で黙っている事しかできなかった。

澄んだ夜風の中で左手を右手で指輪を包むように被せる。

水銀橙を守る事ができない自分が許せなかった……
指輪を馬鹿にされることが僕には水銀橙が馬鹿にされたように思えた。
でも僕は何も言い返せなかった……
頭の中では水銀橙の美しい姿に比べれば、他の会社の社員や言葉なんて取るに足らないはずだ…
それでも何も言い返すことができなかった自分に強い自己嫌悪が募った……
そんなどうしようもない僕は……水銀橙と会う資格がないように思えてしかたなかった。

かれこれこうして公園のベンチに座ってからもう一時間が経とうとしていた……
……もう水銀橙は帰ってしまった時間になっていた。


「もう……帰ろう」

重い腰を持ち上げると暗い気持ちのまま公園から出ようとする……
ふと目の前に一枚の黒い羽がふわりと落ちてきた。
拾い上げると同時にとっさに上を向く。

喪「……水銀橙」

視界の先には街灯の上で僕を見下ろしている水銀橙の姿があった。

喪「水銀橙……どうしてここに……?」
水「さぁ……どうしてかしらねぇ………」
喪「水銀橙もしかして……僕をさがして………」
水「ホントおめでたいわねぇ……そんなわけないでしょ……本当にお馬鹿さん………」
喪「そ、そうだよね……そんなこと……あるわけ……ないよね……」
水「……なぁに……冴えない顔が余計に冴えない顔してるわよ………」
喪「ごめん……水銀橙……」
水「……何言ってるの……わけがわからないわ………」

僕にはただあやまることしかできなかった。
水銀橙に話してもきっと水銀橙はそんなこと気にもしないだろうけど……
それでも僕はあやまらずにはいられなかった………

水「本当にアナタは冴えない上に……わけがわからない人間ねぇ……」
喪「はは………ほんと冴えないよな……自分でも嫌になるくらい………」
水「……いいわぁ…そんなこと……それじゃねぇ………」

会社の同僚の前で見せたような卑屈な顔になる自分がいるのがわかった。
そんな僕の顔に呆れたのか水銀橙は夜空に消えていった……
もしかしたら少しは水銀橙に慰めてもらえると思った自分がいた………
守る事もできなかったくせに……
そんな自分の態度に僕は更に自己嫌悪を募らせるしかなかった……

部屋につく頃には体は芯まですっかり冷えきっていた。
着替えもしないままどっかりとベットに腰を下ろす。
部屋の電気もつけていないせいか気持ちは和らぐどころかいっそう暗くなっていた。
暗闇のなかで何度も水銀橙の顔と社員の連中の醜顔が交互に浮かぶ……
守りきれなかった……というより水銀橙を汚されたように思えた。
両手の拳をぎゅっと握る。
それでもその握り拳はどこへ向かう事もなく次第に弱まっていった……

暗闇の中で下を向いているとベランダから月明かりがほのかに差し込んでいるのがわかった。
その光は僕の半身を照らしていた。
月光を浴びた僕の左手に光る指輪はまるで水銀橙のように妖しく美しく見えた。
ふと小さな影が僕の前に現れた。
まさかと思い顔を上げるとそこには……水銀橙がいた………
いつの間にか僕のそばにまで近寄り、ベットで座り込む僕の視線と同じ高さにいた。
水銀橙の表情はいつもより少しだけ硬いような気がした。

喪「す、水銀橙……なんで…?」
水「………かえしなさい」
喪「えっ……?か、返す?……何を………?」
水「………立ちなさい………上着を貸しなさい………」
喪「えっ?えっ?」
水「早くしなさい………」

訳もわからないまま無言で僕は自分の上着を脱ぐと水銀橙に手渡す。
水銀橙は僕の上着のポケットの中から一枚の羽根を取り出した。

水「人間の分際で私の羽を盗むなんていい度胸ねぇ………」
喪「そ、それは……たまたま水銀橙が落としたから………」
水「それでもアナタは持っていた……違うかしらぁ………」

水銀橙はずいぶん怒っているように思えた……
そんなに怒ることではないように思えたけれど…でも今の僕にはそう見えた……

喪「ごめん水銀橙……そんなつもりはなかったんだ……」
水「言い訳なら聞く気はしないわぁ……」
喪「そ、そんな……ごめん水銀橙……でも本当にそんなつもりは………」
水「………」
喪「ほ、本当にごめん……で、でも僕は……」
水「………そう……なら……態度で示してくれるぅ………」

水銀橙の態度に僕は罰が当ったんだと思った。
水銀橙を守れなかった……何も言い返せない自分への罰だと思った………

喪「態度って……僕はどうすればいいんだ……あやまることぐらいしかできないよ……」
水「……そんなこと知らないわよ……自分で考えなさい………」
喪「そんな………」

僕と水銀橙はようやく電気をつけた部屋でしばらく黙っていた。
必死で考えた末僕は………紅茶を入れることにした。
他に水銀橙が許してくれそうなことが見つからなかった……正直しょぼい考えだとも思った。
……どうせまた「マズイ」と言われ怒られるとは思ったけれどそれ以外思いつかなかった。

喪「す、水銀橙……よかったらこれ……飲んで……」

いつものように水銀橙の分だけ持っていく。
水銀橙は少しだけそのカップを持つとすぐに「マズイ」と言った………

喪「ご、ごめん……でも…これくらいしか僕には………」
水「本当にまずいわねぇ………」
喪「ごめん………」
水「………自分でも飲んだことあるのかしらぁ」
喪「う、うん………一応は………」
水「……ふぅ……間抜けな人間さん……一度は自分で飲んでみたらぁ……入れなおしてねぇ…」

僕はなぜこんなに水銀橙がこんなにもしつこく言うのかわからなかったけれど、
それは僕にとってありがたいことだった。
部屋に戻ってきてからというもの体は冷えっぱなしだったので温かい紅茶は一口飲むと芯から
暖まった。

水「どう……マズイでしょ……」
喪「そ、そうかな……い、いや!う、うん………」
水「でも……体は温まるでしょ……よかったわねぇ………」
喪「う、うん……おかげで暖まったよ………」
水「……それじゃ行くわね……ごきげんようお間抜けな人間………」

水銀橙はどこか満足げな顔をすると部屋の窓から高々と舞い上がって行った。
一人残った部屋には二つのカップが並んでいた。
小さな水銀橙のカップと僕のカップが……そして彼女の置き忘れたさっきの一枚の黒い羽が………



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