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喪男板水銀燈スレより 2

作者:74氏
気のせいか最近、水銀燈は僕の部屋に来る回数が増えた気がする。
今日も気がつくとこうして僕の部屋の窓枠に腰掛けている。
水銀燈が僕の部屋に来てくれるのは嬉しいのだが…季節はもう12月…
正直この季節に夜風が吹く中、窓を開けっ放しされるのは寒い……

喪「ね、ねぇ水銀燈。さ、寒くないの…」
水「…そうでもないわ……」
喪「でも…風邪ひくよ…」
水「……フフッ…間抜けな人間と一緒にしないでほしいわ……」

水銀燈はバカにしたような口調で僕を見ると冬の夜空を見上げていた。
僕は部屋の中でコートを着たままベットに腰掛けると水銀燈と同じように夜空を見上げた。

喪「……水銀燈、何を見てるの?」
水「……さぁ……なにかしら………」
喪「星か何か?それとも月? ……ああっと、今日は雲であんまり見えないか……」
水「………黙りなさい……しつこいわよ………」
喪「ご、ごめん……」

……必死になって水銀橙に話しかけるが一方的な会話で終わってしまう。
それでもこうして水銀橙と言葉を交える時間はとても幸せに思えた。
……窓辺に座り夜空を見上げる水銀橙を改めて見る。
最初は水銀燈を自分の部屋に飾ってある大小さまざまなフィギュアのように
自分の「もの」にしたかった。
……でも水銀燈と会ううちにそんな気持ちは薄らいでいった。
水銀橙を「もの」として見るにはあまりにも水銀橙は人間らしい気がした。
人形を人として見るのはどうかと思ったりも時々するが、
それでも僕は水銀橙に対して会うたびに人間と同じような感情を持つようになっていた。

喪「(ホントに寒いな…水銀燈って結構薄着だけど平気なのかな……)」
喪「(……そうだ!!温かいお茶でも出したら喜ぶかな?…でも飲めるのかな?)」

僕はしばらく考えた後、その場を立つといそいそと台所へ向かった。
がさがさと戸棚をあさる…目当てのものはすぐに見つかった。
白いティーカップ二つをテーブルに置くと、ティ―ポッドにまだ封の開けていない
紅茶の缶から葉を入れて、お湯を沸かす。
お湯をティーポッドに注ぐとソーサーにのったティーカップに入れた。
それを適当なおぼんにのせると鼻歌交じりに水銀燈のいる部屋に戻った。

喪「す、水銀燈!よ、よかったら…こ、これ飲んで……あれ…?」

部屋に戻ると水銀燈は窓辺にはいなかった。
おぼんを持ったまま僕は部屋をうろうろしながら窓辺に近寄った。

喪「す、水銀燈…?い、いないの…?もう帰ったの……?」
水「……うるさい人間ねぇ…どこにいようとそれは私の勝手………」

今まで屋根にでもいたのだろうか、水銀燈はゆっくりと僕の前に下りてきた。
水銀燈と僕の間に紅茶の香りが漂った。

喪「こ、これ…よかったら…水銀燈に……」
水「………」
喪「……水銀燈?」
水「………」
喪「(ど、どうしたんだろ水銀燈…怒ったのかな?……それとも紅茶が珍しいのかな…?)
水「…これは……どういうつもり………」
喪「え…ど、どうって…そ、その…水銀燈に飲んでもらおうと……」
水「………」
喪「…ご、ごめん紅茶嫌いだった…そ、それとも飲めなかった……」
水「…フフ……私が…こんなものを見てあの子を感じるなんて………」
喪「……?…水銀燈……?」

水銀燈は紅茶ののったおぼんを見つめたまま、遠い目をしていた。
その表情は懐かしいものを見るような……でも瞳の奥は険しい何かを見ている気がした。

喪「…水銀燈……?」
水「何のつもりなのかしらねぇ……人間ごときが私と一緒にお茶を飲もうなんて……」
喪「え…あ…その……それは………」
水「契約者にでもなったつもりなのかしら……奴隷のくせに……」
喪「ご、ごめん水銀燈!…そんなつもりはないよ……ごめん…余計なことして……」

……後悔した…まさかこんなに水銀燈が怒るなんて思ってもみなかった……

喪「ごめん……水銀燈……これ片付けてくるから……ごめん………」
水「……待ちなさい」

そう言うと水銀燈はスッとおぼんからカップを一つ取る……カップをさかさまにする……
……「パシャ」っという紅茶が道路にこぼれる音が聞こえた。

喪「………え……水銀橙……そ、そんな……なんで……」
水「なに……これ…私にくれるんでしょ……」
喪「(確かにそうだけど……でもこんなの…酷すぎるよ………)」

水銀橙の行為はあまりにも残酷だった。
あまりに自分勝手な都合のいい展開を求めた結果だったとはいえ…現実は残酷すぎた。
水銀燈はそんな僕の気持ちなど知る由もなく、無言でもう一つのカップをおぼんから手にとっていた。

喪「………自分で片付けるから……カップ…返して………」
水「……アナタが言ったんでしょ……これは私にくれるって……」
喪「……それは!……でも…もういいだろ………自分で捨てるから………」
水「……しつこいわねぇ……これは私のものよ………」

顔をあげることができなかった……
こんな惨めな結果になるなら最初からつまらない期待なんてしなければよかった……
視界が次第に潤んでいく…我慢しようとすればするほど視界は歪んでいく……

――――まずいわねぇ……

…一瞬自分の耳を疑った。
でも顔を上げると、目の前では水銀橙がカップに口をつけている姿がはっきり映っていた。

喪「……なんで……なんで…水銀橙……?」
水「今度は何かしら……せっかく黙って静になったと思ったのに……」
喪「だ、だって…水銀橙が紅茶を飲んでるから……」
水「……アナタ…おかしいんじゃない……それがどうかしたの……」
喪「だって……さっき…紅茶をこぼしたから……いらないと思って……」
水「ホントにお間抜けな人間ね……なにを勘違いしてるのかしら……」
水「……アナタごときが私と同じものを口にするのができないのは当然でしょ……」
喪「え……え…?」
水「……まだわからないの……アナタの分は捨てられて当然ってことよ……」
喪「……(水銀橙が捨てたのは僕の分で…もう一つは…自分の分だってこと……?)」
水「……フゥ……それにしても……どうしようもないわね……これ……」

そう言うとまた一口、水銀橙はカップに口をつける。
あんなことがあったと言うのに僕は彼女の姿に見とれていた……
白いシンプルなカップを手に紅茶を口にする水銀橙はとても優雅だった。
外から部屋の中は冷たかったが、水銀橙の周りだけはどこか暖かい空気が漂っていた。

水「……よくこんなモノを私に出せるわね……何を私の顔を見てるの……」
喪「い、いや何でも……」

しばらくすると水銀橙はカップを窓辺に置き、ふわりと黒い羽を広げて窓の外に出た。

喪「す、水銀橙……ご、ごめん……その……」
水「……なに…用があるなら早くして……」
喪「……う、ううん!なんでもない!」
水「……気持ち悪い人間……さっきまで静だと思ったら今度は笑うなんて……」
水「………私に紅茶を飲んで欲しかったら紅茶の入れ方ぐらい……覚えなさい……」
喪「水銀橙……それって……」
水「……なんでもないわ……無駄な時間を過ごしたわね……」

水銀橙が夜空に飛び立ったいく……後に残ったカップの中身は何も残ってはいなかった。

水「なに……そんな顔して…ホントにお馬鹿さんねぇ……」
喪「(今日も水銀燈が僕の入れた紅茶を飲んでくれた……なんか幸せだ……)」


エアコンが程よく効いた部屋で僕は水銀燈に紅茶を出していた。
水銀燈の紅茶の採点は厳しかったけれど、なにか二人でいれる実感がして嬉しかった。
……でも僕は今日はもう一歩踏み出そうとさっきからクローゼットの方をチラチラと
落ち着くなく見ていた。

水「なに……そっちになにかあるのかしらぁ……」

水銀燈が少し意地悪く笑うとふわりと浮いてクローゼットの方に向かった。
僕は慌ててクローゼットの前に立ちふさがろうとしたが、水銀燈に睨まれると止めた……
水銀燈はためらいもなくクローゼットを開ける。
クローゼットが開くと同時に隠したかったものがコロンとクローゼットから出てきた。

水「………これは」
喪「こ、これはその…あれで…実はその…す、水銀燈………に?」

水銀燈は僕の隠したかったものをよそに、クローゼットの中にしまってあった姿見の鏡に
手を添えるとじっとその鏡を見ていた。

水「こんなものがあるなんて……ちょうどいいわ…アナタこれ部屋に飾って置きなさい…」
喪「……? なんで……?」
水「本当にお馬鹿さんねえ……いいからそうしなさい……」

僕はしばらくして水銀燈が言いたいことがわかった。
そういえば水銀橙は鏡みたいな物から移動できるんだっけ…信じられない話だけど……
僕が一人納得していると水銀橙がいつの間にか「隠しておきたかった物」
を拾い上げていた。

水「………」
喪「………」

銀色の紙袋に白いレースのリボンの巻きついたいかにもプレゼントを思わせる物体。
今日僕が水銀橙にプレゼントしようとしたものだった。

喪「あ……そ、それはその……なんていうか…その……」
水「(これは……なぜ…?この温かみは……?これはまるで……お父様……)」
喪「(やばい……どうする?また怒られるかな……いや!!ここは勇気を出して!!)
水「(なぜなの……?ミーディアムの分際でどうしてこんなものが作れるの……?)
喪「す、水銀橙!そ、それ君に渡そうと思ってたんだ!あ、あけてみて…ください……」
水「……そう……ならそうするわ……」
喪「(!?水銀橙がこんなに素直に!?で、でも結果オーライかな?)

水銀橙が銀色の袋を開けると中から黒地に白いレースがあしらった小さなクッションが
出てきた。

水「…これは……なに……?」
喪「えっと……その…水銀橙のための…座布団みたいなもの…かな?」
水「そうじゃない……これはアナタが作ったもの……」

水銀橙は小さなクッションを片手に持つと無表情だけどどこか難しい顔をしていた。

喪「え……?よ、よくわかったね……あ……やっぱり下手くそだった?」
水「……いいえ……よくできているわ………」
喪「(……???水銀橙がこんなにほめてくれるなんて…一体どうなってるんだろ?)」
水「………」
喪「そ、そうだ!よかったら座ってみてよ!」
水「………」
喪「ど、どうしたの……ご、ごめん調子にのりすぎた……えっ!?あ、あの水銀橙!?」

水銀橙は顔を上げるとクッションを床に落とすと無言で窓を開けて出て行った……
僕はとりあえず何がなんだかわからないままその場にたたずんだ。

気がつくべきだった……
水銀橙と僕は契約の上でしか成り立っていないことを……
仲良くするためにいるわけではないことに……
水銀橙は「なにか」のために僕と「契約」をしている事に……

それからしばらく水銀橙は僕の前に姿をあらわしてはくれなかった。
ただ会いたかった……水銀橙のことがどうしても気がかりで心配だった。
気がつけば毎日のように彼女のことを強く想う日々が続いていた。


そんな日が続いたある日僕は仕事で家につくのが遅くなった。
家に帰るが水銀橙の姿はどこにもいなかった。
自然とため息がでる…
窓辺にでて水銀橙の名前を呼ぶがそれは夜の闇に吸い込まれるだけだった。
窓を閉めるとふと背筋がゾクリとする。
同時に水銀橙が出しておいてくれと言った姿見の鏡が怪しい色に輝いていた。
僕はその怪しい光に引き寄せられるように鏡に近づいていった。
指先が鏡に触れると鏡の表面が水面のようになり僕は…鏡の中に吸い込まれていった…

気がつくとそこは見たこともない街…廃墟の街だった。
僕はしばらく呆然としていたが上を向いた瞬間少しだけ安堵した。
そこには水銀橙がいた。

喪「お、お〜い水銀橙!!」
水「………!?」
喪「…?聞こえないのかな?お〜い水銀橙!!」

僕の姿を見つけた水銀橙が勢いよく僕の所に飛んでくる。

水「アナタ……いったいどうやってこの場所へ……!!くっ……やられた……」
喪「ど、どうしたの水銀橙…?こ、ここは一体……?」

次の瞬間僕の足元やその周りからガラスの柱のようなものが次々とはえてきた。
僕はそのガラスの柱に刺さらないように必死に逃げ回った。

喪「こ、これって…?す、水銀橙!一体何がどうなってるんだよ!?」
水「だまりなさい……いいから早く元の部屋に戻りなさい!!でないと……!!」

水銀橙のこんな何かを警戒している姿を初めて見た。
いつもは悠然としているのに…いったいどうなっているんだ?
一人でパニックに陥っているとさらにわけのわからないことが起こった……

喪「な……水銀橙と同じ人形…なのか……?」

いつの間にかガラスの柱の頂上に一人の眼帯をした人形が僕と水銀橙を見下ろしていた。
白い長い髪に紫のドレス…そして美しい顔には不釣合いな眼帯……

水「薔薇水晶……アナタどういうつもり……私と戦うつもりじゃなかったのかしら……」
薔「……そうのつもり……その人間は勝手にここに来ただけ……」

そう言うとまた僕と水銀橙に向かってガラスの柱を突き立ててくる。
水銀橙が僕の前に立ちふさがり背中の黒い羽を広げてその柱を粉砕していく。
……もう僕の言葉はこの「戦い」に入り込む余地はなかった。
ただすくむ足のままに二人のドールの動きを目で追うのがやっとだった。
……だが徐々に水銀橙の旗色が悪くなっていく。
薔薇水晶と呼ばれたドールは水銀橙だけではなく僕にも容赦なく攻撃をしかけてくる。
水銀橙は僕をかばうようにしてなかなか反撃に移れない。
水銀橙の動きが徐々に遅くなる……柱を避けきれずに何度も羽でガードするがそれも
虚しくじりじりと追い詰められる。

薔「どうしたの……そんな人間…なぜかばうの……」
水「……かばう?……冗談でしょ……フフッ……ハンデよ私とアナタとのね……」

そう水銀橙は言いのけるが状況はかなり悪い……
すでに水銀橙は飛ぶ事もままならずにいる……このままでは……

――――その指輪は奴隷の証。私の糧になる素敵な証………

僕は拳を握り締めると脳裏によぎった言葉のまま叫んでいた。

喪「水銀橙!力を…僕の力を使え!!」
水「………耐えられるつもり…死ぬかもしれないわよ……」

水銀橙の言葉におののくが迷いはなかった…これ以上水銀橙が傷つくのが見たくなかった。

喪「……信じてるから……水銀橙は…僕にとって……大事だから!だから早く!!」
水「……そんなこと言われなくても……最初からそうするわ……行くわよメイメイ!!」

激痛が体を走りぬける。
痛みで体が張り裂けそうになる。
水銀橙の体が紫色の光に包まれる……僕はそこで意識を失った………

水「やっと起きたわね……」

気がつくと僕は自分のベットの上にいた。
水銀橙は机の上のこしかけ僕を見下ろしていた。
僕はそれから水銀橙に色々なことを聞いた…
ミーディアムのこと…ローザミスティカのこと…他のドールの事…
そして―――『アリスゲーム』のことを………

喪「そうなんだ……水銀橙はそのために僕と契約して…だから時々痛みがあったのか…」
水「……そうよ…怖くなった……止めたくなったでしょ……」
喪「………」
水「……でもそれはできないわ…アナタがどんな形にしろ私と契約した……」
喪「………」
水「力は使うわ…私はアリスになるべくして生まれたのだから………」
喪「………」
水「お話はここまで……私は行くわ……それじゃね………」

水銀橙がいなくなり僕はひとり天井を見上げていた。
死ぬことは怖い…けれど僕はそれ以上に水銀橙を信じようと思った。
だって机の上には今さっきまで水銀橙が僕の作ったクッションに座っていたのだから…


喪「ふっ…ふっ……ふっ………ハァ〜〜……」

夜の公園のベンチにドカっと腰を下ろす。
荒くなった息を整えると、額から流れ落ちる汗を手の甲で拭う。

僕は……あの日…水銀橙と共に送り込まれた場所で「薔薇水晶」というドールと
戦ってからというもの、仕事の後はこうして毎日夜になるとランニングをしていた。
……僕は……あの瞬間…水銀橙の力にはなれなかった……
だから…僕は…水銀橙の力になりたかった………
……たとえ…命を失うとしても………

今日はいつも以上にそんな気持ちが強くなる……
今夜は世間ではクリスマスの夜を迎えていた。
公園のほかのベンチでは何組ものカップル達が仲むつまじそうに寄り添っている……
公園に所々設置されている街灯がまるでそのカップル達を祝福するように照らしている。
……少しだけ…毎年のことながら気持ちが落ち込む……

―――もし水銀橙とあんな風に仲むつまじくできたら
―――もし水銀橙が僕の……恋人だったら………

膨らむ妄想をかき消すように頭を振る……
…何をいまさら……毎年のことじゃないか……意識しなければただの平日の夜だろ……
呼吸が完全に整うと僕はベンチから立ち上がり走りだした。
できるだけペースを上げてクリスマスの夜の道を走り抜ける……
途中何度もすれ違うカップルに笑われた…指も指された……
……でも僕には…今はこうするしかない……水銀橙のために………

自宅に帰るとすぐに汗で濡れたトレーニングウェアを脱ぎ捨てる。
……水銀橙は今日も部屋には来ていなかった。
あの日の戦いから僕と水銀橙の間には少しだけ近づいていた距離の途中に
大きな溝のようなものができた……
力を使う者と力を提供する者……あの戦いで思い知らされた僕と水銀橙との本当の関係…
あれから僕と水銀橙はこの部屋で会っても口数が減った……
話し掛けてもどこかあの時の無様な自分が脳裏に出てきて気持ちが沈んだ。
水銀橙のいる時間も減った……
あんなに楽しみだった水銀橙に入れる紅茶もあれ以来一度も出していない。
窓辺から水銀橙の姿を探すのも止めた……もとい……できなかった………

一度は水銀橙を信じると決めたのに……その気持ちは日々揺らいでいった。
水銀橙はあの日のことは何も口には出さない…
指輪からの痛みもあの日から一度もない……
……僕はもう用なしではないか?という気持ちになる日が増えていった。

無言でシャワーを浴びる。
風呂場に備え付けられた鏡を見ると少しだけ引き締まって痩せた僕の体が映っていた……

シャワーを浴びて部屋のベットに腰掛ける。

―――もしあの日がなかったら僕は水銀橙と今日はどんな日を過ごしていただろう?
―――温かい紅茶とケーキを目の前にしてクリスマスらしいことができたかもしれない…

……でもそれも今の「現実」の前では到底かなわないことだった。
現に僕の視界の前に水銀橙はいない……

ベットに倒れこむと自然と口から水銀橙の名前が零れ落ちた……

喪「水銀橙……(…止めろ……役立たずの僕がその名前を呼ぶ資格はないんだ……)」
喪「水…銀…橙……(いい加減にしろよ……役立たず………)」

頬に涙がこぼれるの同時に何かの気配を感じた。
ベットから起き上がると水銀橙が僕を見下ろすように机の上に座っていた……

喪「す……水銀橙……!!あ……あの……今のは…呼んだんじゃなくて……」
水「……何を言っているのかしらぁ……アナタが呼べば来るほど私は暇じゃないの……」
喪「………」
水「何度も言ってるでしょ……本当にお馬鹿な人間ねぇ………」

会話が続かなかった……
何かを言おうとしても、今の非力な僕が水銀橙に声をかける資格などなかった………
でも……心のどこかではうれしかった……
どんな形にしろこうして「クリスマス」という日に会えたことがうれしかった……

水「……まぁいいわぁ……『糧』生きていれば問題はないわ……」

『糧』という言葉が僕の心に深く響いた……
いつもの水銀橙らしい言葉なのに今日は……
まるで僕のことなんかどうでもいいような言い方に聞こえた……
水銀橙は黒い羽を広げると鏡の前に立った。
それは今日はもう帰ってしまうことと、
僕と水銀橙の「クリスマス」の終わりを意味していた……



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